◎本記事を読むべき対象者
- 近い未来の日本のまちがどうなるか気になる人
- 技術士試験受験者
2040年までに、道路を含むまちの景色が徐々に変化していきます。まずは前編として、道路技術者のわたしが、目指されているまちの景色について、将来像を示します。
◎2040年、道路の景色が変わるとは?
“2040年、道路の景色が変わる”は、社会をより良い方向にしていくために、道路でできることを中長期的な政策の方向性として、国交省が提案したキャッチコピーです。
その社会とは、ポストコロナの新しい生活様式や社会経済の変革も見据えた2040年の日本社会を念頭とされております。
〇背景
“2040年、道路の景色が変わる”を提案する背景は、大きく4点あります。
災害や気候変動インフラ老朽化
- ここ数年頻発している豪雨や台風による土砂崩れ、河川の氾濫等の対策が必要である。
- 今後起こりうる大地震の対策も必要である。
- 高度成長期に建設された社会資本が寿命を迎えメンテナンスが必要である。
人口減少社会
- 生産労働人口が減少による人手不足である。
デジタルトランスフォーメーション(DX)
- IT革命がますます進展し、ITの浸透が人々の生活のあらゆる側面に影響を与える。
ポストコロナの新しい生活様式
- コロナ禍で進展したテレワーク、WEB会議等がポストコロナにおいてニューノーマル(新常識)となる。
〇基本的な考え方
背景を踏まえ、“2040年、道路の景色が変わる”ための道路政策の考え方を3つ掲げました。
「SDGs」や「Society5.0」は「人間中心の社会」の実現を目標
道路政策の原点は「人々の幸せの実現」
移動の効率性、安全性、環境負荷等の社会的課題
デジタル技術をフル活用して道路を「進化」させ課題解決
道路は古来、子供が遊び、井戸端会議を行う等の人々の交流の場
道路にコミュニケーション空間としての機能を「回帰」
〇5つの将来像
そして“2040年、道路の景色が変わる”によって、道路の景色が変わった後の将来像が5つあげられております。
①通勤・帰宅ラッシュが消滅
テレワークやホログラム(投影)技術により、あたかも相手が目の前に居るかのようなバーチャルコミュニケーションが普及します。したがって、人と人とが直接会うことは、より高い価値が創出されるシチュエーションに限定されます。
以上より、通勤等の義務的な移動が激減し、自宅から職場までの距離の制約が無くなります。自然や観光資源の豊かな郊外や地方への移住・定住が増加し、大都市圏では郊外と都心の間の朝夕の大量移動が減少していきます。
つまり、交通サービスのかたちが、都心から放射状に拡がるハブ・アンド・スポーク型から、多様な ODペア(出発地と到着地の組合せ)に対応したポイント・トゥ・ポイント型に移行していきます。
②公園のような道路に人が溢れる
旅行、散策、健康のためのウォーキングやランニング等、「楽しむ移動」が増加します。通勤においても、公共交通よりも、あえて徒歩や自転車で移動する人が増加します。
さらに、「楽しむ滞在」も増加します。人が滞在したり休憩したりできるビュースポットやベンチが設置され、また、道路の占用制度を緩和させて民間に開放すること(オープン化)によりオープンカフェ等が道路上に現れます。人のための空間が拡大し、公園と一体化した道路も出現するなど、人がより外出したくなる道路空間が生まれます。
つまり、国土面積の約3%を占める道路空間が壮大な「アメニティ空間」としてポテンシャルを発揮することにより、まちそのものの景色も変わります。
③人・モノの移動が自動化・無人化
車による人の移動は「自動運転車による移動サービス」に代わっていきます。自動運転車の普及により交通事故は劇的に減少し、安全な道路空間が出現するとともに、マイカー所有のライフスタイルが過去のものとなります。自動運転の解説記事
また、ECの浸透により買い物目的の人の移動が減少する一方、物流の小口配送が増加します。自動化の進展が無人物流を普及させ、「小型自動ロボット」や「ドローン」が道路やその上空を自在に移動します。そして、自動化・無人化により輸送コストが低下することで、物流のかたちが「超多頻度小口輸送化」(ODペアが爆発的に増加する)します。
つまり、道路にはこれら人の乗換やモノの積卸等を行う大小のハブ(拠点)が出現します。
④店舗(サービス)の移動でまちが時々刻々と変化
完全自動運転の実現により、営業しながらの移動が可能となった飲食店、医院、クリーニング、スーパー、教育施設等の小型店舗型サービスが、顧客の求めに応じて道路を移動するようになる。それらの店舗は、曜日や時間に応じて、道路の路側に停車し営業を行う。
中山間地域では、移動小型店舗が、道の駅等と連携し、買い物や医療等の日常生活に必要なサー
ビスを提供する。
⑤災害時に「被災する道路 」から「救援する道路 」に
こちらは別記事で解説した内容が実現された将来像を指しております。「道路の耐災害化強化」
道路ネットワークが常時・災害時でも安定的に機能を発揮します。耐災害性能が強化された道路ネットワークは、災害発生時には速やかに災害モードに切り替わります。災害時のオペレーションに必要な電力や通信は途絶えさせず、避難、救援、物資輸送等に係る交通が確実にモニタリング・誘導され、人命救助、被災地の速やかな復旧に最大限の力を発揮します。
◎おわりに
前編では、「背景」、「政策の考え方」、「政策によって変化した将来像」について記述しました。後編では、政策の内容について記述します。
【時代の変化についていけ】2040年,道路の景色が変わる!?(後編1/3)
【時代の変化についていけ】2040年,道路の景色が変わる!?(後編2/3)
【時代の変化についていけ】2040年,道路の景色が変わる!?(後編3/3)
それでは~
参考文献:https://www.mlit.go.jp/road/vision/01.html